デス・オーバチュア
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その虚像は北方大陸の全ての場所から見える程に巨大だった。 ガルディア皇国現女皇イリーナリクス・フォン・オルサ・マグヌス・ガルディアの巨像(虚像)……立体画像(ホログラム)が宣言する。 聖皇祭という名の血祭り(血の祭り)の開会(開戦)を……。 『期間は月満ちるまでの約七日間』 巨大虚像(イリーナ)はルール説明に入っていた。 『十三人の『贄』が出るまで殺し合えばいい……』 「けっ、それじゃ足りねえな」 漆黒の悪魔(ダルク・ハーケン)が毒づく。 『最後の一人になるまで殺し合えなんて非道いことは言わないわ。怖ければ、贄が揃うか、時間切れまで逃げ隠れしていればいい……まあ、そんな『強者』はいないでしょうけどね」 そう言って、イリーナはとても愉しげに微笑った。 「十三じゃねえ二十六だ……」 イリーナの言葉は大陸全域(大陸に居る全ての者)に向けた一方的な放送であり、会話をしているわけではない。 「……おっと、それはあくまで必要最低限の数だったな」 ダルク・ハーケンもそれは承知しており、自分の声を彼女に伝えようとしているわけではなく、ただ単に勝手に呟いてるだけだ。 「この氷の大地で蠢く全ての命の抹殺……ハッ! 結局誰一人生き残れやしねえんだよ! このオレ様が殺し尽くすからな! 皆殺しだ! ヒャハハハハハハハッ!」 黒い悪魔が嗤う、この世の誰よりも邪悪に、狂悪(きょうあく)に……。 「悪魔は契約(約束)だけは守らなくちゃな……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」 今もこの氷の大地の遙か『下』で寝ぼけているだろう天使(?)の願いなど本当は知ったことではなかった。 彼は契約すら平気で破る規格外の悪魔。 そんな彼が契約を履行する気なのは、彼自身の目的(楽しみ)と彼女の願望が一致するからだ。 「喚起(起き)ろっ、邪王剣!」 ダルク・ハーケンの左手の甲に刻まれた赤十字が妖しく輝くと、漆黒の十字剣が出現する。 「さあ、喰らいに行こうぜ。極上の魂(餌)をな……」 漆黒の十字剣を左手で掴み取ると、ダルク・ハーケンは遠方に聳(そび)え立つ氷の城に向かって歩き出した。 「生け贄が十三騎と同じ数か……なるほどね」 「…………」 クロスとタナトスは、女皇の開会宣言とルール説明を「ガルディアへと向かう列車」の中で聞いていた。 向かい合って座席に座る姉妹の間のテーブルの上では、小さなイリーナが動いている。 「……別に音声だけでも問題ないだろうに……」 タナトスは小さなイリーナ(精巧すぎる立体映像)を半ば呆れたような目で眺めていた。 「……1/7フィギュア(人形)……」 クロスの膝上に乗っている人形のような幼女(セブン)が呟く。 「ん? 1/6ぐらいはあるんじゃない?」 「適切過剰……」 「……ああ、1/7ぐらいの大きさの方が好きなわけね?」 「……アナザー1/8……」 「1/8もアリ? 1/6は大きすぎて好きじゃないと?」 「……何の話をしているんだ、お前達は……?」 それ以前に、セブンのあの端的な言葉をよく解読できるものだ。 妹と『セブンチェンジャー最後の悪魔』はいつの間にかかなり『ツーカー(自然な意思疎通が可能)』になっている。 「それにしても……」 セブンは一応セブンチェンジャー(七体の悪魔)の主であるはずの自分より遙かに、クロスに懐いていた。 「仲良くなったものだ……」 ただ一方的にセブンが懐いてるだけでなく、クロスの方もとても自然にセブンに接している。 二人の様は、まるで仲の良い『姉妹』のようだった。 「あ、終わった」 テーブルの上の『1/7イリーナ(立体映像)』が跡形もなく消滅する。 「……まあ、だいたい解ったわ。『祭り』のシステムも『ゲスト』の意味もね……」 クロスはセブンと雑談しながらも、しっかりイリーナの演説も聴いていたようだ。 「ゲストの意味?」 「そうだ、ゲストとは十三騎の身代わり(スケープゴート)に過ぎない」 「!?」 突然、見知らぬ男の声が割り込んでくる。 「ふぅん」 タナトスの座席の横に『黒いバイザーをした白髪の男』が、ごく自然に立っていた。 男は少年と呼んでもいい程に若々しく、黒のジーンズとシャツの上に、白いコートを羽織っている。 「誰よ、あんた?」 「これは失礼した。私の名はサーフェイス……君達と同じくゲストとして呼ばれた一介の剣士だ」 白髪の少年(サーフェイス)は名乗り、口元に『好意的』な微笑を浮かべた。 そうとても好意的で友好的で……敵意を感じさせない。 けれど……。 「……あんた、かなり嫌な奴ね」 クロスの直感は彼を『敵』と判断していた。 厳密に敵ではないとしても、どこか胡散臭く、なんとなく好きになれない……。 「これは手厳しい」 サーフェイスは再び微笑った。 今度のはとても自然な笑い。 おそらくクロスの『反応』が本気で愉快だったのだろう。 「痛快だな……」 「えっ?」 「いや、大したことじゃない……さて話を戻すか」 ひとしきり愉しんだ後、サーフェイスは真顔に戻った。 「元々、十三騎というのはガルディア初代女皇……『聖皇』に付き従った十三使徒が元になっている」 「建国神話ね……」 『ガルディアを建国した神人の物語』なら、つい最近聞いたばかりである。 「問題なのは、十三騎はだいたい百年位の周期で『祭り』を行って、血を入れ替えることだ」 「血を入れ替える?」 「メンバーの入れ替えのことよ、姉様」 「ふぅん、淀む水に芥たまる……変化の無い組織は必ず腐る……それを予防するための手段だそうだ。少なくとも表向きはな……」 サーフェイスは明らかに含みのある言い方をする。 「百年ごとの入れ替え戦か……」 メンバーが『普通の人間(百年も生きない者)』だけで構成されているなら、かなり不要というか無意味な儀式(行為)だ。 「で、裏の方の目的は? ついでに教えてもらえないかしら、『一介の剣士(サーフェイス)』さん?」 クロスは悪戯っぽく問いかける。 「ふぅん、『含み』返すか……嫌いではないぞ、こういう会話は……それに貴様自身にもかなり好感を覚える」 「おあいにくさま、あたしはかな~りあなたが嫌いよ。直感的にね」 さらりとした告白ともとれる発言を、クロスはばっさりと切り捨てた。 「それは残念なことだ」 「心にもないことを言うわね」 そして二人は同時に微笑う。 会話を……腹の探り合いを愉しむかのように……。 「……さて、裏の目的だったか?」 「ええ、そうよ」 「裏……というより真の目的というべきか……聖皇祭の目的は大昔から今に至るまで変わらず『十三人の生贄を捧げる』こと……それだけだ……」 「それは行程……目的を果たすための手段じゃないの?」 「ああ、手段だとも」 「ちょっと……」 「話は最後まで聞け。祭(儀式)は形骸化し、結果として『表の目的』へと成り下がる……そういうことだ」 「……そうか、表が後付けなのね」 元々は表の目的など存在しなかったのだ。 本来の目的を達成できず生じた結果が、後に「表の目的(対外的な建前)」になっただけに過ぎない。 「少なくともここ数回は目的が果たされたことはない。いや、正確には『私の知る限り目的が果たされたことは一度もない』……」 「それってまさか……今まで一度も……てこと?」 「さあな、正確な(古い)ことを知りたいなら女皇か宰相……それか四大騎神でも訊くがいい」 「女皇と宰相は解るけど……四大騎神?」 四大騎神というのは十三騎の中でも『別格』な四人のことだ。 単純に十三人の中で一~四番目に強いというわけではない。 言葉通り、いろいろな意味で『格』が違う存在なのだ。 「四大騎神の中には初代からずっと変わってない奴がいるそうだ」 「なるほど、建国の頃から関わって(生きて)いる化け物ってわけね。それなら歴史の真実を目にしているだろうけど……」 真実(本当)を話してくれるとは限らないし、それが真実か虚偽(虚言)か判断する術をクロス達は持っていない。 「ふぅん、少し喋りすぎたか。では……また会おう、銀髪の魔女(クロスティーナ)よ」 サーフェイスは一方的に話を打ち切ると、前の車両に向かって歩き出した。 「あ、ちょっと、待ちなさいよ!」 「そうそう聖皇祭は無差別殺合(バトルロイヤル)だが私に襲いかかってくるなよ? 私にその気はないのでな」 一瞬だけ振り返りそう告げる。 「何よ、その『貴様は好戦的だからな』と嘲笑うみたいな微笑はっ!?」 「はははははっ! 大した被害妄想だ! まあ正解だがな」 「なああああああああっ!?」 「ふははははははははははははははははっ!」 高らかに笑いながら、サーフェイスの姿はドアの向こう(前の車両)へと消えていった。 「まったく口を挟めなかったな……」 タナトスは最後尾の車両を目指して歩いていた。 特に目的があるわけではない。 ただの到着までの暇潰しの『散歩』である。 「それにしても……あの二人……」 前方ではなく後方を散歩の方向に選んだのは、なんとなくだ。 なんとなく……あの男の後を追う形になるのが、再度遇うかもしれないのが嫌だったから……。 「……やけに合ってなかったか?」 クロスは失礼な程はっきりと嫌いと言っていたが、気とか波長といったものがあの二人はかなり合っているようにタナトスには思えた。 初対面でありながら、軽口の叩き合いが自然に、腹の探り合いが愉しそうに……なんというか……。 「んっ?」 鎖の擦れるような音が聞こえたかと思った瞬間、腹部に軽い衝撃を覚えた。 「きゅう!?」 タナトスの視界の中に『小さなモノ』が転がり出てくる。 「……子供!?」 あり得ないことだった。 いくらボーッと(考え事を)していたとはいえ、衝突するまで気配にまったく気づかないなんてことは……。 「……すまない、大丈夫だったか?」 納得いかない気持ちは脇に置いて、タナトスは『尻餅をついている子供』に手を差し出した。 「大丈夫大丈夫、問題ないよ」 ジャラッといった音をたてて、『幼い子供』はタナトスの手をとらずに、身体を捻ってひとりで立ち上がる。 「鎖……手錠?」 衝突の直前に聞いた音の正体。 それは幼い子供の小さな両手首を繋ぐ『赤い鎖』。 漆黒の輪に鮮やかな赤花模様が描かれた拘束具らしからぬお洒落な手錠だった。 「どうかしたのかな、お姉ちゃん?」 幼い子供は可愛らしく小首を傾げる。 「いや……」 タナトスは改めて、幼い子供の容姿に注意を向けた。 年齢はおそらく十歳前後。 腰まである長く美しい髪(ロングストレートヘア)も、身に纏う透けるような(シースルー)ドレスも見事な赤色をしていた。 それでいて、濃さの違う淡い赤(紅)……つまり桃色の瞳と、ドレスの襟と袖と裾の黒いフリルが、見事なアクセントとなって赤の鮮やかさをより強めている。 スカートから覗く両足は黒ニーソに包まれて、その上から可愛い赤靴を履いていた。 「あ、お姉ちゃん。そこの帽子拾ってもらえるかな?」 赤き子供の視線の先……タナトスの足下に、小さなシルクハットのような黒帽子が落ちている。 なぜシルクハットの『ような』と表現するかというと、第一にその黒帽子は小さすぎて『かぶれるサイズ』ではないこと。 第二に艶や張りというか……素材が一般的なシルクハットとは明らかに違うこと。 最後に、黒帽子は赤い薔薇(造花)とリボンが縫いつけられていて……お洒落すぎる帽子だということだ。 「これか?」 タナトスは黒帽子を拾うと、赤き子供に差し出す。 「うんうん、ありがとう」 赤き子供は黒帽子を受け取ると、自らの頭上にふわりと軽く放りあげる。 黒帽子は、子供の脳天から少しずれた右斜めの位置にペタリと魔法のように張り付いた。 「おお~……?」 ちょっと不思議な光景に、タナトスは声を上げてしまう。 そんなに凄いことだと吃驚したわけでも、感動したわけでもないが、魔法……いや、手品のような鮮やかさに対しては、素直に反応せざるをえない。 「ありがとうだよ、お姉ちゃん」 赤き子供はクスリと微笑って、お礼を言った。 「んっ……」 タナトスは微かな違和感を覚える。 とても穏やかで悪意の無い笑顔だけど、どこか子供らしくない笑顔に思えた。 何というか……子供(相手)と大人(自分)の関係が逆のような……。 「さてと、それじゃあ~わたしはもう行くね~」 「……ああ、ぶつかってすまなかった」 「気にしなくていいよ~。お姉ちゃんも本当に………だね」 赤き子供は苦笑といった感じの笑顔を浮かべる。 「ん?」 「なんでもないよ。あ、そう言えばお互い自己紹介もしていなかったね」 「……失礼した。私はタナトス・デッド・ハイオールドだ」 「あ……わたしの名はアゼリア・C(シー)・ロード。ん~っ、通りすがりの『魔法使い』とでもいったところかな~?」 赤き子供(アゼリア)は自らの発言を不審あるいは不思議がるかのように、再び可愛らしく小首を傾げるのだった。 タナトスは後方車両に、アゼリアは前方車両に消え、その車両には誰も居なくなった……わけではなかった。 「あははっ、本当にわたし達に気づかないで行っちゃいましたよ~。タナトス様ったら~」 和服(着物)にサングラス(黒眼鏡)の少女……殲風院桜が軽快に笑う。 「ふふん、だから言っただろう。『大丈夫だ、問題ない』と」 桜と向かい合って座っている『赤い髪の女』が愉しげに応じた。 彼女達の居る座席は、『タナトスとアゼリアが立ち話をしていた』すぐ真後ろ。 普通なら見つからないわけがない場所だった。 「大したものですね、あのお子様も~。まあ、何もしなくても気づかれなかった可能性もあったかも知れませんが……」 最初に現れた時、タナトスはボーッとしていたので、もしかしたら自分達に気づかず通過したかもしれない。 「いや、それはないだろうな。どれだけ惚けていようと、アレは魔の気配には敏感だ」 「なるほど、確かにタナトス様はそちらの方面にだけは鋭い御方……あなたと一緒で見つからないわけがないですね~」 「ふふん、否定はしないが……貴様も他人のことは言えないと思うがな」 「いえいえ、滅相もない。わたしなど魔属も神属も持たないただの無力で無害な人間ですよ~」 「……『人間』か……まあいい。神でも魔でもないのは満更嘘ではないしな」 「あなたの方は『神でも魔でもあり』そうですけどね~」 「ほう……そこまで見抜くか……」 「『見抜く』のだけは得意なんですよ♪」 「ふふん!」 「あはっ!」 一笑の瞬間、銀色の回転式拳銃(リボルバー)が桜の額に、白刃の短刀が赤い髪の女の喉元に突きつけられていた。 「神銀鋼(ゴッドシルバースチール)製の短刀か……いい武器、そしていい判断だ」 「あなたの方は随分と俗っぽい玩具を使いますね~」 赤い髪の女と桜は互いに後一押しで、相手の額を撃ち抜くか、首を斬り落とせる状態で拮抗を保つ。 「無銘……伝説は無さそうだが……凄まじい絶品(武器)だ。昔の私なら絶対に収集(コレクション)しただろうな」 「勝手に鑑定しないでください……んっ、今はいらないってことですか?」 「ああ、今は貴様の言う銃器(玩具)にしか興味がないのでな。刃物等のコレクションは大昔にやめた」 「それは結構な話ですね、武器コレクターなんてろくなひとがいませんからね~。どっかの皇妃様とか特に……」 桜は『どっかの皇妃様』を脳裏に思い浮かべて、意地悪く嗤った。 「ふふん」 赤い髪の女は左手の回転式拳銃を引き戻すと同時に、右手で喉元の短刀を払い除ける。 あくまで軽く、ゆっくりとした動作で。 「……いいでしょう」 桜はその意図……殺り合う気が無いことを察し、白銀の短刀を後ろ腰の鞘へと収めた。 無論、完全に警戒を解いたわけではない。 短刀にはいつでも抜刀できるように手を添えたままだし、視線の端では常に回転式拳銃を捉えている。 「用心深いことだ……それより、貴様はこの玩具に違和感を覚えないのだな?」 「ほぇ?」 予想外の質問に桜がきょとんとしている間に、赤い髪の女は回転式拳銃を手品のように掻き消した。 「気にならないのなら気にするな。では……」 「あ、わたしの方が先に行きますよ」 立ち上がろうとした赤い髪の女を手で制し、桜は自分が先に席を立つ。 「ふふん、次に出逢うことがあったら……」 「ええ、今度は寸止め無しですね。存分に心ゆくまで殺り合いましょう~♪」 桜は振り返ることなく赤い髪の女に応え、前方車両へのドアの前に立った。 センサーが反応し、自動的にドアが開かれる。 「えっ……」 遮蔽物(ドア)と入れ替わるように黒い壁……いや、黒い男が立っていた。 「…………」 男は無言で桜を避けて、後方車両に入ろうとする。 不審に思いながらも桜は、男とすれ違って前方車両へ……。 「……まだ稼働(動いて)いたのか、ガラクタが……っ」 「なぁっ!?」 聞き捨てならない一言に後方を振り返った時には、桜と男の間を分かつようにドアが再び閉じられていた。 『ガルディア皇国』へと至れる唯一の移動手段であるこの汽車は、北方大陸と中央大陸を結ぶ氷道を日に何度も往復(行き来)している。 だが、その殆どの場合、車内は無人であった。 なぜなら、ガルディア皇国に行こうとする物好き、命知らずなど『滅多』にいないからである。 「ふぅん、いくら祭りの時期とはいえこの乗車率は異常だな」 サーフェイスは嘲るように呟いた。 場所は客室としての先頭車両。 「まあ、多いといっても両手の指の数を超えるか超えないか程度だが……ああ、『上』に乗ってるモノを含めれば確実に超えるか?」 頭上……すなわち車外に乗っている変わり者が何人か居ることは確認するまでもなく気配で解っていた。 「普通に乗ればいいものを」 乗車率が異常といっても、実際には席はいくらでも余っている。 ここまで来るまでに、無人の車両もあったぐらいだ。 「そういえば、銀髪のメイドが二人居た車両もあったな……」 タナトス達と違って離れて座っていたので仲間同士なわけでもないのだろう。 「面白い偶然もあったものだ」 「ふふん、この世に偶然などない全ては必然だ」 「ふぅん、よく聞く台詞だ。誰が最初に言い出したか解らない程にな……っ」 突然背後から声をかけられてもサーフェイスは動じることなく、振り向きざまに近場の座席に勢いよく座り込んだ。 「もう着くぞ」 「解っている」 サーフェイスと向き合っているのは、鮮血の如き赤い長髪の女。 見た目の年齢はサーフェイスと同じか、少し上ぐらいだろうか。 褐色の肌に身に纏うのは腰布と腰帯、ティアラ、ピアス、首飾り、胸飾り、腕輪と足輪といった装飾品(アクセサリー)だけだった。 腰布は純白、腰帯は深紅、そして装飾品は全て黄金に宝石を鏤(ちりば)めた豪華絢爛な品である。 「いつ見ても貴様の私服のセンスは最悪だな、アッシュ……」 「ふふん、これは私服ではなく『正装』の一つだと以前教えたはずだ。それにメ……悪魔としてはライダースーツよりこちらの方がおかしくないと思うが?」 身に纏う装飾品達にも負けない輝きを放つ『黄金の瞳』がサーフェイスを見据えてくる。 「…………ふぅん」 サーフェイスは肯定するでも否定するでもなく、しばらくの間の後、鼻で笑った。 くだらない、つまらない、どうでもいい……といった結論に達したのだろう。 「ふふん、着いたようだな」 汽車の停止する振動と音が伝わってくる。 「ふぅん、行くぞ、アッシュ。祭りの……いや、終焉と復活の地になっ!」 サーフェイスは座席から立ち上がると、氷の世界に向かって悠然と歩き出した。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |